LS3/5Aについて

BBCモニターLS3/5Aで聴こう

軽いコーンは立ち上がりが速い?

かつて廃刊久しい「FM-fan」というFMラジオ番組の情報誌がありました。インターネットもお金もない時代ですから、ラジオから流れてきて気になった音楽の曲名を聞き逃したときには、書店に走って「FM-fan」で調べるわけです。

その「FM-fan」に連載されていたのが『長岡鉄男のダイナミックテスト』。すぐに、その歯切れの良い文章のファンになりました。氏の好みは軽いコーンに強力なマグネットで能率が高くて速い音のスピーカーでした。重いコーンで低能率のカッタルイ音は嫌い。いやいや音速は一定(室温で約344m/s)だ、とか野暮なことは言いっこなしですよ。止まっている物を動かそうとするなら軽い物の方が動かしやすい、立ち上がりが速いという意味です。

しかしよく考えてみると、立ち上がりが速いと言ったところで出力信号波形が入力信号波形よりも速く立ち上がったらそれはそれでオカシイので、最高に速く立ち上がっても入力信号と同じ速さのはずです。つまり、”速い音”とは入力信号波形を忠実にトレースした音に他なりません。

百聞は一見に如かず、振動系が重い・中くらい・軽いのスピーカーについて、それぞれサイン波の再生波形を観察してみました。使用したユニットは次の通り。

  • 重い:KEF B110(LS3/5Aのウーファー*1  M0=10.5[g]   BL=7.1[T-m]
  • 中位:マークオーディオOM-MF5 M0=2.05[g]  BL=2.62[T-m] (フルレンジ)  
  • 軽い:FOSTEX FE83En M0=1.53[g]   BL=3.35[T-m](フルレンジ)
       M0は実効質量、BLはフォースファクター(ボイスコイルに発生する駆動力)

入力信号は200Hzのサイン波2周期分ですが、簡易測定のため入力と出力との同期が取れないので、位置の目安としてサイン波の節と腹とにそれぞれ10kHzのサイン波(半波)でツノのような目印を付けました。下図の「原音」がそれです。

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重い、中位、軽い振動系の再生波形

駆動力に対する実効質量はLS3/5AのウーファーB110が断然重くて、OM-MF5の2倍弱、FE83Enの3倍以上あります。B110のコーンはそれだけ動かしにくいはずです。

ところが、上の再生波形データを見ると重いB110のみならず、それより軽いOM-MF5もFE83Enも、200Hzの最初の半周期が潰れてしまってほとんど再現されていません。ツノの部分には反応している*2ものの、余計な振動が付加されて波形が大きく変化しています。特にOM-MF5は共振を起こしているようです。そして二周期目はB110が最も原音に近い波形を示し、OM-MF5とFE83Enは1/4波長ほど位相が進んでいます。さらに三者とも入力信号が途絶えた後もすぐには止まりません。原音には無い残響が付加されているわけです。

結局、波形の再現性は振動系の重さや駆動力の強さのみで決まるほど単純なものではなくて、もっと他にも要因がありそうだということが分かりました。その要因が何で、どのようにして解決するのかということは、それこそスピーカーの設計者が考えるべきことでしょう。

それでは、なぜ振動系が軽いほど立ち上がりの速い音に聴こえ、重いほど立ち上がりの遅い音に聴こえると、長岡鉄男のみならず多くのオーディオファンが言うのでしょうか?

おおよそ推測はつきますが証拠を示せないので言いません。言わぬが花という言葉もあります。 

*1:LS3/5Aでは200Hzの信号は内蔵されているクロスオーバーネットワークの作用によりB110のみに入力される。

*2:LS3/5Aではクロスオーバーネットワークの作用によりツィーターのみが反応している。