LS3/5Aについて

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カルロス・クライバーと松田聖子

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むかし、夏休みに友人たちと旅行に行ったときの話。待ち合わせの旅館に私だけ早く到着して暇つぶしにテレビをつけたら、ちょうどベートーヴェンの第7交響曲をやっていました。そして小さなテレビのスピーカーから流れ出る音楽が、私の今まで知っていた第7番を、みるみる賞味期限切れにして行ったのです。

ブラウン管の中で踊って指揮していたのがカルロス・クライバー(1930-2004)。名前は知っていたけれど、その演奏を聴くのも指揮姿を見るのも初めてでした。

その特徴を短い時間で見るには次のアンコールの動画が適しています。

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まだ拍手がおさまらないうちにタクト一閃、演奏を始めてしまい、そして拍子なんか振りません。なだらかに旋律をなぞり、素速いアクセントを入れる優雅で俊敏な動き。湧き立つリズム。いつも微笑みを浮かべ、音楽をするのが楽しくて仕方ない様子です。
作曲家で評論家の柴田南雄は、このクライバーの芸風を瞬間形式と呼びました*1。モメント・フォルム*2とは、要するに「瞬間芸」です。

クラシック音楽、特に交響曲はレンガを一つずつ積むように全体を構築して行く音楽だから、部分的なあり様にこだわることなく最後に大きな感銘を残すというのが優れた演奏とされますが、それを「瞬間芸」の連続で押し通したのはクライバーだけでしょう。

その視覚的パフォーマンスについて、次のような評もあります(文中の文字の強調は私が付けたもので原著には無い)。

・・・クライバーはその手、特に左手を”流暢な、雄弁な”と形容されることがあるが、その華麗なアクションは演奏者に向けられたものというよりは、流れるメロディーが見事に視覚化され、音楽とのリンクによって卓越した効果を発揮し、聴(観)衆に向けてダイナミックなメッセージを伝えていると解釈した方が妥当であろう。・・・(中略)・・・この音楽を視覚的に表現することの秀逸さではクライバーが天下一品であることに疑う余地はない。ただ、これは”指揮”というよりは”ダンス、踊り”と考えた方が適当と思われる。

〜『音響と映像が共存するアーティスト〜カルロス・クライバーの視覚的パフォーマンス』(松井靖彦 WAVE #31  P.98-105)

 

まとめると、

  • 優雅で敏捷な動きと湧き立つリズム
  • いつも微笑みを浮かべ、音楽をするのが楽しくて仕方ない様子
  • 瞬間芸
  • 左手の表現力
  • 音楽を視覚的に表現するダンス

これらのキーワードから私が最初に連想する他のパフォーマー松田聖子、そう聖子ちゃん!です(クライバーファンに怒られてしまうかもしれませんが)。なぜそうなのかは、例えば次の動画をご覧いただくのが手っ取り早いと思います。微笑みと左手にも注目してくださいね。

 

youtu.be

この動画は、TVで歌われた「天国のキッス」から♪誘惑されるポーズの裏で誘惑してるちょっと悪い娘♪を切り取って集めたものですが、この部分は歌のサビではありません。こうした平歌の一部だけでも芸が成立してしまう、そしてひとつとして同じ表現が無い、すなわちこれが「瞬間芸」というやつです。どの部分を切り取っても大丈夫なので、同じような編集動画がYouTubeにどっさりUPされています。例えばそのリンクの一部。

少し陰ある瞳がとても素敵な件 - YouTube

【松田聖子】涙を糸でつなげば集 - YouTube

【松田聖子】ダーリン集 - YouTube

帰りたいのに帰れない件 - YouTube

あなたの腕の中で旅をする件 - YouTube

【松田聖子】あなたのせいよ集 - YouTube

松田聖子(마츠다 세이코) - 渚のバルコニー (そして…秘密… 57連発) - YouTube

【松田聖子】チョキチョキ集 - YouTube

【松田聖子】花園集 - YouTube

松田聖子と並び称される中森明菜にはこのような動画がひとつも見られないのは、まさに二人の芸風の違いなのですが、それについては別の機会に述べたいと思います。)

クライバーと聖子ちゃんに共通するのは、聴衆を幸せにするマジックを持っていることです。例えば、この歌に描かれているように。
♪君をもっと夢中にさせてあげるからね キラキラのPOP STAR 羽根を拡げ魔法をかけてあげよう 君だけに♪(平井堅は聖子ファンらしいです。)

youtu.be

 

 

そうそう、忘れていました。もうひとつ共通点があります。それは、作詞家・松本隆が二人のファンなのです。Wikipediaにちゃんと書いてあります。

クラシック音楽にも造詣が深く、シューベルトの歌曲集「冬の旅」「美しき水車小屋の娘」「白鳥の歌」現代日本語訳をつけた。1999年には、カナリア諸島へ伝説の指揮者カルロス・クライバーの演奏会を聴きに行ったことがある。

松本隆 - Wikipedia

カナリア諸島にて」を書いた後にカナリア諸島に行ったというのが面白いですね。

 

<追記>

細野晴臣作曲の「天国のキッス」のメロディは、何となくシューベルトぽいと感じています。具体的にどこがどうというわけでは無いのですが、例えばこの「ロザムンデ」。

youtu.be

 

<追記2>

歌なしでもここまで行けちゃう。(あ〜くさん、ありがとうございます。)

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*1:”指揮者のカルロス・クライバー(1930-)のばあいは、シュトックハウゼンのモメント・フォルム(瞬間形式)との共通性が感じられる” 『柴田南雄著作集III』P.427

*2:モメントは「不連続性によって他のセクションから引き離された、自己完結型の(準)独立したセクション」として定義される” モメント形式 - Wikipedia