LS3/5Aについて

BBCモニターLS3/5Aで聴こう

筒美京平の本歌取り

f:id:whiteparasol:20210909215359p:plain

筒美京平という名前を知らなくても、その作品を耳にしたことのない日本人はいないと言えるくらい、歌謡曲の作曲家と言えばまず筒美京平という時代がありました。そして、どの曲にも元ネタがあると言われていました。YouTubeにこんな動画があるくらい。→ 筒美京平 元ネタ音源集 - YouTube

 

近田春夫が「文春オンライン」に次のように書いています。

── 洋楽の換骨奪胎の手法が、ここに至って一段進化した気がしますね。
近田 70年代のそれは、誰が聴いても分かりやすい、あからさまな形を取っていたのよ。
── 昭和47年に発売された欧陽菲菲の「恋の追跡(ラヴ・チェイス)」(作詞:橋本淳)なんか、米国のブラスロックバンド、チェイスの「黒い炎」(1971年)のフレーズをほぼそのまんま使ってましたもんね。
近田 そもそも、曲名からして因果関係を隠そうともしていない(笑)。ところが、80年代を迎えると、パッと聴いただけでは分からない引用が増えてくる。その元ネタを突き止めることに、俺みたいな物好きの人間は苦心したのよ。
(2ページ目)近藤真彦、田原俊彦、少年隊…数々の大ヒットを生み出した天才・筒美京平の“凄さ” 「ジャニーさんが本当にやりたいのはこれなんだなと…」 | 文春オンライン

 

以前の記事で取り上げたこの曲などは「誰が聴いても分かりやすい、あからさまな形を取って」いますね。

www.youtube.com

元ネタ:For The Peace Of All Mankind (落葉のコンチェルト) / ALBERT HAMMOND - YouTube  (埋め込み再生できないのでリンクからYouTubeでお聴きください。)

 

もう一曲、これも分かりやすい。

youtu.be

 

元ネタ(ちょっと音が小さいです)

youtu.be

 

さらに近田春夫

これは80年代に入ってからの話になるけど、京平さんと仲良くなって、一緒に旅行に行く機会があったんだ。俺も京平さんも、当時発売されたばかりのウォークマンを持って来てたから、飛行機の中でお互いのカセットを交換したのよ。それを聴いてみて驚いた。京平さんのカセットにはリアルタイムの洋楽のヒット曲が詰まっているんだけど、全曲、イントロから一番のサビまでしか入ってない。つまり、あくまでも資料と割り切って聴いてるんだね。筒美京平の秘密を知ってショックを受けたよ。
(2ページ目)筒美京平さんの「作曲の秘密」を知ってしまった旅行先でのウォークマン「ネタ音源事件」 | 文春オンライン

 

近田 そういや俺、つい最近になって、「センチメンタル・ジャーニー」の元ネタが何だったのか気づいたんだ。あれは、ギルバート・オサリバンの「アローン・アゲイン」 (1972年)だよ。
(3ページ目)《80年アイドル時代》なぜ天才・筒美京平は松田聖子と中森明菜に楽曲提供しなかったのか「聖子ちゃんが歌ったら、相性が合ったんじゃない」 | 文春オンライン

 

これは、

youtu.be

これですか。

youtu.be

 

やっぱり、「80年代を迎えると、パッと聴いただけでは分からない引用が増えてくる」みたいです。なぜそうなのでしょうか?

 

次の論文はもう一人の引用の巨匠・大瀧詠一に関する記事の中でも取り上げましたが、ここにヒントがあるような気がします("作家”を"作曲家"と、"本"を"楽曲"と、読み替えてください)。

真にすぐれた作家はすべての読者に「この本の真の意味がわかっているのは世界で私だけだ」という幸福な全能感を贈ってくれる。
そのような作家だけが世界性を獲得することができる。
コールサイン」のもっとも初歩的な形態が「本歌取り」である。
これは「本歌を知っている読者」と「知らない読者」をスクリーニングする。

X氏の生活と意見 - 内田樹の研究室

'70年代は音楽に関する情報がまだまだ少なくて、例えば輸入盤のレコードを買えるのは大都会(≒東京)に限られていたと思います。そんな時代に、レアな楽曲を引用したところで誰も気づかず、「本歌取り」の意味がありませんので、あえて分かりやすい元ネタを選んで、あからさまな形で引用して見せたわけ。

それが'80年代に入るとリスナー側の情報量が増えたために、あからさまな引用では多くの人が気付いてしまうようになり、これまた「本歌取り」の意味がなくなるので、難易度を上げたのかもしれません。(近田春夫が長いこと分からなかったというのは難しくし過ぎですが。)

 

それにしても、自分の聴かせたい曲を作った大瀧詠一(芸術家タイプ)と、あなたの聴きたい曲を作った筒美京平(職人タイプ)とは、その点では北極と南極なのですが、そんなお二人がどちらも引用の巨匠であるのはとても興味深いと思います(両極端はしばしば良く似る)。