LS3/5Aについて

BBCモニターLS3/5Aで聴こう

中古のLS3/5Aはどのくらい劣化しているのか?

BBCのR&D部門においてLS3/5Aの開発の主導者だったダドリー・ハーウッドがBBCを退職後1977年に創業したハーベス社は、1980年代後半にアラン・ショウに引き継がれ、現在でも英国内にある自社工場でスピーカーシステムを生産していることは、オーディオファンならご存知かもしれません。

ハーベス社が1989年にライセンスを取得してLS3/5Aの生産販売を開始する際にBBCから付与された3台のリファレンス機(a,b,c)は現在でも同社に保管されており、そのうちの1台についてハーベス・ユーザーズ・グループのフォーラムに掲載された周波数応答特性測定結果を下に図示します。https://harbeth.co.uk/usergroup/

1989年製のリファレンス機cを、取り壊される前のBBCの無響室で2007年に測定した結果が赤色の曲線で、ハーベス社の無響室で2020年に測定した結果が青色の曲線です。無響室でも十分な無響環境が得られない200Hz以下の低音域を除けば、両者はよく一致しています。つまり、11オーム版のLS3/5Aでは、少なくとも2007年から2020年までの13年間の経時劣化は極めて小さいようです。

f:id:whiteparasol:20210905102227j:plain

図:リファレンス機c(赤,青) および 当方所有機(緑)の比較

さらに、上図には当方所有のRogers社1995年製LS3/5A(11オーム版)の簡易測定結果を緑色の面として重ねて表示してあります。測定方法は、自室6畳洋室ほぼ中央のテーブル(高さ74cm)の端部にLS3/5Aを置き、そのツィータとウーファの中間から20cmの距離にiPhoneのマイク孔をバッフル面に向けて置き、スピーカーから20Hz-20kHzサイン波対数チャープ信号(時間に対して周波数が対数的に増加)を出力してiPhoneアプリの”ボイスメモ”で録音し、PCアプリの”Audacity”で波形表示させたものです(データが16kHz付近で途切れるのは”ボイスメモ”の録音仕様のようです)。ハーベス社のグラフとのY軸方向の位置合わせは目分量で適当に行いました。倍率表示(dB)なので問題ありません。

図中、ハーベス社の測定結果に対して当方所有品が大きく突出している箇所をオレンジ色の矢印で、逆に当方所有品が大きく凹んでいる箇所を黄色の矢印で、それぞれ示します。
このうち、200Hz以下の低音域では室内反射が大きく影響するため、自室での測定の正確さは期待できません(90Hz付近の突出は部屋の平行面による共鳴かもしれない)。また、90Hz以下で急激に応答が減衰している点については、録音の際にiPhoneアプリ側で低音をローカットしている可能性も考えられます。5kHz, 8kHz, 10kHz付近の急峻な谷の原因は不明です。
とはいえ、下図に示すように、それぞれの周波数応答曲線の凹凸は90Hz以上の周波数領域でほぼ6dBの範囲に収まっています(Rogersのカタログ仕様は70Hz-20kHzで±3dB以内)。

f:id:whiteparasol:20210905143045j:plain

周波数応答の凹凸

リファレンス機は1989年製で31年経過、当方所有品は1995年製で25年経過と、製造時期に6年間の隔たりがあり、当然ながら製造ロットが全く異なるにもかかわらず、全体的に見て測定結果がよく一致していることからすれば、LS3/5A(11オーム版)の製造時からの経時変化は比較的小さいものと考えて良いのではないでしょうか。

中古品であっても、良好な環境で使用されてきたものを選べば、新品の時と大きくは変わらない音が聴けることを期待できそうです(もちろん、老化しない機械はありませんので誤解の無いように)。

 

<追記>

BBC R&D部門の報告書 "THE DESIGN OF THE MINIATURE MONITORING LOUDSPEAKER TYPE LS3/5A" のFig.4に掲載されている15オーム版の周波数応答曲線(黒色線)と当方所有の11オーム版の簡易測定データ(緑色)との比較を下図に示します。100Hz以下は捨象するとしても、当方所有品は200Hz-500Hz付近および1.5kHz-4kHz付近が高め、5kHz-10kHzが低めですが、これは経時劣化というよりは15オーム版と11オーム版の違いなのかもしれません。BBCは11オーム版の周波数応答特性を公表していないので真相は不明です。

f:id:whiteparasol:20210906202058j:plain

BBC報告書と当方所有品との比較

<追記>

上図では当方所有のRogers社1995年製LS3/5A(11オーム版)の簡易測定結果を緑色の面として表していますが、実は時間と共に対数的に周波数の上がるサイン波(チャープ信号)をX軸方向に圧縮したものであり、拡大すると次のようにちゃんと波形が見えてきます。上図ではこのサイン波の上半分だけを表示しています。

f:id:whiteparasol:20211011204252p:plain

LS3/5Aの簡易測定結果の拡大図