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ライバルを聴け!〜明菜のアルバム3枚〜

いつも同じ文体で書くと飽きるので、たまには”ですます調”をやめてみようか。今回はハードボイルドだど!

松田聖子のアルバム3枚なら『Pinapple』『ユートピア』『風立ちぬ』か、あるいはそのうちの一枚を『SQUALL』と入れ替えるという選択で、大方の同意は得られると思う。

中森明菜はどうか。明菜ファンの運営する掲示板での質問投稿とその回答によれば、明菜はどの時期も良いので3枚に集約できないという。煮えきらない奴らだ。
明菜ファンができないというのなら、私が代わりにやってやろう。'82年5月1日のデビューから'89年までのワーナー・パイオニア時代が最盛期なのは明らかだから、そこで発売された14枚の中から選ぶのが妥当だろう。

 

1. バリエーション〈変奏曲〉

まず初期3部作では2枚目の『バリエーション〈変奏曲〉』('82年12月)が、わりと楽曲の粒が揃っていると思う。デビュー当時は歌唱が未熟で(だから良いのだという見方もできるが)、後のアルバムを聴けば、この人は歌って上手くなったタイプだということが分かる。同じツッパリ路線ながら「少女A」よりもカッコいい「キャンセル」と「ヨコハマA・KU・MA」、対照的にストリングス伴奏の「咲きほこる花に」がオススメだ。

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2. ANNIVERSARY

5枚目のアルバム『ANNIVERSARY』('84年5月)は、なかなかに美メロ揃いで、デビューから2年経った明菜のボーカルもずっと安定感が増し、はしゃいだ笑顔を見せるジャケット写真のように充実した仕上がりとなった。来生たかおの「まぶしい二人で」や尾崎亜美の「バレリーナ」を聴いてみてほしい。個人的にはこのアルバムが一番好みに合う。

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3. D404ME

しかし、硬質な手触りのアレンジで統一された8枚目『D404ME』(’85年8月)こそ、高品質の楽曲を卓越した歌唱技術で歌いこなした最高傑作かもしれない。ひそやかなウィスパーと力強く張ったシャウトとの対比で構成する明菜的歌唱が完成している。シティポップ的な「アレグロ・ビヴァーチェ」、いかしたロックンロール「マグネティック・ラブ」など、どれをとっても見事な仕上がりだ。おまけに付いているサンバアレンジの「ミ・アモーレ」も聴き物。

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<おまけ1>

『D404ME』の後、明菜は迷走を始めてしまうのだが、特に楽曲提供者に竹内まりやを得た『CRIMSON』('86年12月)は全く残念な出来となった。聖子の『Citron』をD.フォスター付きでそっちにやるから、代わりに『CRIMSON』をよこせと言いたい。(『Citron』好きには申し訳ないが、私はD.フォスターと相性が悪い。)

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<おまけ2>

ファーストアルバムから、これは明菜の大袈裟に言えば黒歴史的な一曲。もちろん明菜に責任は無くて、選曲したプロデュース側の問題だが、当時のアイドルのアルバムなんてシングル曲以外はこの程度で十分という認識だったのだろう。真剣に歌っているのでノベルティソングとして聴けば上出来で、いよいよ明菜が気の毒。
それにしても、♪血液、何型〜♪と大迫力で迫られたら引くよなあ。(この箇所は下の試聴範囲には入っていないけれど、spotifyはアカウントを作れば全曲無料聴取できるはず。)

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<追記>

アイドルについて語る際には、三つの階層 - 私人、職業人、虚像 - を区別する必要がある。このうちの「職業人」の部分について、週刊誌の記事中に二人の芸能関係者による次のような回想があった。

1.酒井政利氏の発言*1

酒井政利氏(今年7月死去)は生前、「明菜を一言で表現するとしたら『完璧主義者』ということでしょうか。レコーディングでは編集にまで口を挟んだとも言われていましたからね。とにかく妥協を許さなかったと聞きました。そういったこともあって、明菜にあえて助言する人がいなくなってしまったのです。ある意味で不幸なことだったのかもしれません」としながらも、松田聖子との違いも指摘する。  
「明菜と聖子は、まさに1980年代を代表するアイドルでしたが、曲に対するスタンスには大きな違いがあった。明菜と違って、聖子は表面上ではとにかく人当たりがよかったのです。例えば歌詞を自分で書きたいとか、ちょっとしたこだわりは見せるものの、結局は他人に任せる部分があって。もちろんスタッフだけに見せるようなワガママな顔も持っていましたけどね」  
一方、明菜については「作品はもちろん、衣装についても、完璧主義者であるが故に妥協できなかった。しかも完璧さを他人にも求めるため、スタッフは疲れてしまう。本来の明菜というか、素顔の明菜は、食事の場では自分から取り分けるなど人への気遣いができる子でした。それが作品作りになると一変してしまうのです。もちろん聖子も口出しはしますが、表面上は円満に見せるのがうまいのです」。(2021.9.7 zakzak by 週刊フジ より引用)

【歌姫伝説 中森明菜の軌跡と奇跡】聖子と違い「完璧主義者」…妥協できないゆえに消えた周囲の助言 いったん身を引くことも不可避に (1/3ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

 

 

2.小西博之の発言

中森明菜は『DESIRE-情熱-』がヒットして、カリスマ的歌姫になっていた。
「明菜ちゃんは、とにかく一生懸命に生きている人だし、血気盛んな年ごろ。本番前の楽屋には彼女の怒鳴り声が響いていた。“命かけてるんだから、ちゃんとやって!”って。彼女のことをいろいろ言う人もいるけど、単に怒っているんじゃない。“打ち合わせで、この服を用意してって言ったでしょ、間に合いませんでしたはダメなの!”って。スタッフが言い訳をすると“だったら、なんで前の日にできないって言わない?”と。

 彼女の言っていることはいちいちもっともで、僕は応援していました。歌は全力で歌うし、まじめ。早めにスタジオに入って、懸命にカメラの映り方を研究している。人知れず努力していたんです」(週刊女性2020年7月28日号より引用)

『ザ・ベストテン』司会者、中森明菜の怒鳴り声と小泉今日子の“匂い”に仰天の過去 | 週刊女性PRIME

 

3.再び酒井政利氏の発言

酒井政利氏(7月16日没)は生前、女性週刊誌の取材に「2人はまったく違うタイプのアイドルのように見えるかもしれませんが」と前置きした上で、「私が見る限りにおいて聖子と明菜というのは根幹では共通していました。それはアイドルとしての虚像をデビュー時に作り上げたことでした。ただ比較されるほど聖子は“幸せ”の、一方の明菜は“孤独”の虚像となっていったのです。しかしそれを徹底したからこそ、アイドルとして成功したのだと思いますね」と語っていた。

 さらに「ともにトップを維持できたのは事務所やレコード会社に守られていたからですが、売れたのは『私がすごかったからよ』と勘違いしてしまった部分もあったように思いますね」。(2021.9.14 zakzak by 週刊フジ より引用)

【歌姫伝説 中森明菜の軌跡と奇跡】聖子と決定的な違いは楽曲 “幸せ”か“孤独”か…アイドルの虚像で人気を二分 (1/3ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

 

4.田中良明氏の発言*2

「聖子の場合は、どこかでアイドルを演じているように思っていました。でも明菜は基本的に路線を作らず、彼女の素材、魅力を生かすことを考えてきました。その違いだったのではないでしょうか」(2021.9.14 zakzak by 週刊フジ より引用)

【歌姫伝説 中森明菜の軌跡と奇跡】聖子と決定的な違いは楽曲 “幸せ”か“孤独”か…アイドルの虚像で人気を二分 (1/3ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

 

 

*1:当時、CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)で南沙織郷ひろみ山口百恵キャンディーズなどアイドルを育て上げた日本を代表する音楽プロデューサー

*2:明菜の所属レコード会社だったワーナー・パイオニア(現ワーナーミュージック・ジャパン)の邦楽宣伝課で明菜の担当プロモーターだった