LS3/5Aについて

BBCモニターLS3/5Aで聴こう

LS3/5Aの言い分

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以前の記事『40年間でスピーカーはどれくらい進歩したか?』の最後に、「iLoud Micro Monitorの前ではラジカセに間違えられかねない骨董品LS3/5Aが、45年もの長きに亘って熱狂的なファンを獲得してきた理由も、少し分かったような気がする」と書きました。

 

最初の投稿のとおり、私がノスタルジーからLS3/5Aを衝動買いしたのは2年半ぐらい前のことです。それから遅まきながら他のスピーカーのことが気になり始め、東京方面へ行った帰りに秋葉原のオーディオ専門店に恐る恐る入ってみたら、店員がこちらをジロリと睨むだけ。無愛想だなと思いつつ別フロアに上がっても同じ反応。ああそうか、こういうところは金持ちの常連客相手で食っていけるイイ商売なんだと納得して早々に退散しました。利益率は相当高そうです。まあ、win-winなんだから余計なお世話ですね。

次に駅前にある大手家電量販店のオーディオ売り場に行くと、いくつかある試聴ブースはどれもガラガラで心配になるほど。おかげで並ベてあるスピーカーを端から切り替えて鳴らしてみることができました。フロア型や大型ブックシェルフ型、新生Rogers等いくつかのLS3/5A復刻版も含め、自室のLS3/5Aと似た鳴り方のものはひとつもありません。部屋の大きさ、ずらりと並べられたスピーカー、聴取距離も音量も違うから当然なのですが、今思えば試聴ブースで聞いた音は最近手に入れたiLoud Micro Monitorと同じ匂いがしていました。その後、東京国際フォーラムのオーディオショウにも行って、そこで聴いてみたいくつかの超高額なスピーカーも、スケールが違うから当然ですがLS3/5A的ではありませんでした。

 

百聞は一見に如かずなので、比較動画を作って見ました。無作為抽出した男声アナウンスをLS3/5AとiLoud Micro Monitorから流して、それぞれiPhoneのボイスメモで録音したものです。部屋の響きを最小限に抑えるため、スピーカーとiPhoneの距離は20cmで、ツイーターとウーファーの間にマイクを向けています。

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どうでしょうか。 原録音と比較するとLS3/5AもiLoud Micro Monitorも声に余計な響きが付加されていますが、iLoud Micro Monitorの方が余計な響きが多くて声が太く感じませんか。「太い」というのは曖昧な表現なので、もう少し正確に言いましょう。よく聴くとアナウンスの男声の中にも高い音の成分と低い音の成分とが感じられ、iLoud Micro Monitorの方が低い音の成分が大き目に響きませんか。西洋音楽で重要なベース(最低音E1=41.2Hz)がよく聴こえるように設計されたスピーカーは、人声に低い響きがつきまとうことが多いようです。

LS3/5Aは野外放送車用、つまり競馬や野球の実況放送用に設計されており、アナウンサーの声につきまとう響きをうまく抑えてあると思います。LS3/5Aはボーカルを聴くスピーカーと言われている所以です。

 

もうひとつ、LS3/5Aの特徴としてステレオイメージの問題があるかもしれません。二つのスピーカーから同時に音が出た時に、あたかも二つのスピーカーの間の空間から音が出ているように聴こえるのは人間の脳の錯覚です。次の動画のようにアコースティック・カメラにステレオを聴かせると、それぞれのスピーカーから音が出ていることをちゃんと検出します。機械は冷静で客観的です。

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 (なぜ人間はそんな錯覚をするのかというと、自然界で二箇所から全く同時に全く同じ音が出る現象は起きないため進化の過程でそれを識別できなくても淘汰されなかったからでしょう。)

LS3/5Aはこの錯覚の引き起こし方が独特なのであり、それには、複雑なクロスオーバー回路による位相遅延や、エンクロージャーの前縁から沈められたバッフル、そのバッフルの内側から取り付けられたウーファー、ツイーター周りのフェルト材、太い木枠に張られたサランネットによる音の反射・回折など、本来は望ましくないとされるあれやこれやの要因が絡み合っているらしく、これは最初から狙って設計したというよりは偶然そうなったように思えます。どこをどうすればどのような錯覚が起こるのかという因果関係がはっきりしていないからです。当然ながら錯覚の程度や具合はリスナー個人による差異が大きいため、オーディオファンの中でもLS3/5Aの提供する音響によって独自の錯覚を引き起こされる人たちからは熱狂的に支持され、そうでない人たちからは欠点だらけの骨董品として一蹴されるのだろうと思います。私は、偶然にもLS3/5Aに騙されやすい脳を持っていた - いわゆる"信者" - というわけです。(これは何もLS3/5Aに限ったことではなくてオーディオ機器に関する多くのオカルト論争の主要因、などと言うと話を拡げすぎなので止めておきます。)

ブラインドテスト等によってこの仮説を検証することができそうですが、それには大勢の人の協力と多大な労力が必要であり、そしてその結果はほとんど何の役にも立たないので実現は無理でしょう。Harman社で数多くのブラインドテストを実施したFloid Tooleも、例えば次の#50の投稿でスピーカー固有の共振等があるとスピーカーの位置が感知されやすい、すなわち「消えない」とは言っていますがリスナーの個人差にまでは言及していません。生産者側の立場では、個人差を追求することは無意味ですから仕方がありません。

https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/what-makes-speakers-disappear-and-can-it-be-measured.25313/page-3

 

LS3/5Aの引き起こす独自の錯覚の話に戻すと、妙な擬人化ですが、iLoud Micro Monitorを含む多くのスピーカーは達成度はどうあれ原寸大の現実を再現しようと苦労しているのに対して、LS3/5Aは現実を縮小してミニサイズにすることで知らんぷりを決め込んでいる風なのです(あくまでも一辺80cmの正三角形配置で聴いた場合の話)。ベースだって小さくなって弦長が短くなるから、そんなに低音まで出なくても良いってことになるわけ(身勝手な理屈ですね)。そして、他のスピーカーではボーカルも様々な楽器のひとつという認識なのに、LS3/5Aはボーカルだけを特別扱いします。例えば、iLoud Micro MonitorからLS3/5Aに切り替えると、ボーカルにパッとスポットライトが当たる。以前の記事で真っ先に松田聖子を取り上げたのはそういうことなのです。ただし身長30cmの聖子ちゃんになりますが。(こうした信者の妄想を空気録音でお伝えすることは到底無理なので、実機を自室でお聴きいただく他はありません。)

 

結論としてどちらが良いのかと問われれば、どちらにも長所と短所があるので楽曲や気分によって使い分けたいという玉虫色の回答になります。

 

<追記>

人間の脳の働きについて考えるのにちょうど良い記事がオーディオ客観主義者の根城にアップされていました。AC電源の歪がオーディオ機器に与える影響についての検証です↓

www.audiosciencereview.com

 オーディオマニアは電源にはうるさくて、一般家庭の壁コンセントの商用電源をクリーンにするための各種アクセサリーに飽き足らず、オーディオ専用電柱(電柱上トランス)まで調達する強者もいるくらいですが、今回、AC電源をわざと大きく歪ませてもオーディオ機器の出力に全く影響しないという測定結果となりました。専用電柱は客観的には効果なしという訳です。

しかし、だからと言って聴感が変わらないということにはなりません。物理的に全く等しい音声信号であっても、リスナー個人の脳の働きが変われば音も変わって聴こえます。専用電柱を建てる前と後とでオーディオ機器の物理的出力が全く変わらないとしても、リスナー個人の脳内では"専用電柱を建てた"という事実が脳内の聴感判断アルゴリズムを変化させて、以前よりも良い音に聴こえさせるはずです。(もちろん、ブラインドテストでは聴き分けられません。判断アルゴリズムを変化させる情報 -専用電柱を建てたこと - が遮断されるからです。)

これが一般に"信仰"と呼ばれているものだろうと思います。オーディオ客観主義者たちは、オーディオ主観主義者の"信仰"を打ち砕こうと懸命ですが、却って信仰心を強めるだけのように思います。歴史に学ぶべきでしょう。