LS3/5Aについて

BBCモニターLS3/5Aで聴こう

40年間でスピーカーはどれくらい進歩したか?

LS3/5A(Rogers社)の日本デビューが1976年、奇しくもちょうど40年後の2016年に発売されたiLoud Micro Monitor(IK Multimedia社)をご存知でしょうか。

製品サイト:https://www.ikmultimedia.com/products/iloudmm/?pkey=iloud-micro-monitor

アンプ内蔵型のデスクトップ・スピーカーで、デジタル・シグナル・プロセッシング(DSP)により位相遅延なしで周波数特性やタイムアライメント補正を行い、超小型ながら55Hz(-3dB)という低域再生を可能とした画期的な製品です。どのくらい小型かというと、LS3/5Aの天板にちょうど載るサイズです(下の写真参照)。コーン振動板をボイスコイルで駆動するタイプのダイナミックスピーカーの技術は1970年代に日本のメーカーによってほぼ極められてしまい、それ以降は強力なネオジム磁石の登場と新素材振動板ぐらいしか革新がなく、実質的な進歩が止まっていましたが、近年普及著しいデジタル関連技術(スイッチング電源、DSPなど)によって、どのくらいの飛躍を遂げたものか確認したいと思い入手してみました。価格は3万円を切るときもあったようですが、現在は税込4万円弱(ペア)です。インプレは最後の方に書きます。

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LS3/5AとiLoud Micro Monitorの寸法比較(実測)

上の写真のように6畳洋室のほぼ中央に置いたデスクの前縁近くにLS3/5Aを載せ、その天板にiLoud Micro Monitorを立てて置き(上の写真は比較のために寝かせてある)、それぞれのバッフル面(ツイーターとウーファの中間辺り)から約20cmの距離にiPhoneを手に持ってマイクを向け、各スピーカーからSPL75dBのピンクノイズを30秒だけ出音して、iPhoneアプリSpectrum Analyzer Proで周波数特性を撮った結果は次の通り。

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LS3/5A(11ohm)の周波数特性

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iLoud Micro Monitor(L-ch)の周波数特性

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ピンクノイズの周波数特性

スピーカーにピンクノイズ(-3dB/oct.)を入力すると平坦(水平)な周波数応答が得られるはずですが、両者とも高域にかけて傾斜(LS3/5A:約-1.3dB/oct., iLoud Micro Monitor:約-0.8dB/oct.)している原因は私の知識不足もあってよく分かりません。測定位置を遠ざけても傾斜具合はあまり変化しないので、ツイーターの指向性やバッフル面積の影響ではないようです。至近距離で測定したので室内反射の影響も大きくないはずなのですが。

上の周波数特性グラフ中の二本の破線(赤色)は周波数特性の凹凸の最大幅を表し、その間の破線(黄色)は目分量での平均値を表しています。凹凸の幅(赤色破線間距離)はLS3/5Aで約±5dB、iLoud Micro Monitorで約±6dB(ただし150kHzのピークを除く)です。

LS3/5Aは仕様に70Hz-20kHzで±3dBを謳っていますが、今回は無響室ではなく一般家屋での測定であることと、製造から26年経過していることを勘案すれば、±5dBというのはそこそこ立派な結果のように思います。クロスオーバーネットワークの素子に経年変化の少ないフィルムコンデンサを採用しているのが効いているのかもしれません。

一方、iLoud Micro Monitorは前述の製品サイトに下図の周波数特性(凹凸の最大幅3dB程度)がありますが、おそらくこれは実験室でのチャンピオンデータでしょう。DSPを搭載しているとはいえ量産製品は個別に細かくキャリブレーションされていないらしく、上の測定データでは老化LS3/5Aよりも凹凸が多いのは意外でした。また、150Hzに共鳴と思われる大きなピーク(L-chよりR-chがやや大きい)があり、少し気になります。この製品の一番の売りである低域再生については、50-100Hzにしっかりした応答があって、キャビネットの体積がLS3/5Aの1/4以下であることを考えれば驚異的です。

https://www.ikmultimedia.com/products/iloudmm/images/1.0/iloudmm_frequency_response@2x.jpg

 

それでは過渡特性はどうでしょうか。100Hzの矩形波(半波)を入力してiPhoneのボイスメモで録音した結果は次の通りです(時間軸方向は目分量で適当に並べただけで、同期は取れていません)。

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100Hz矩形波(半波)に対する時間応答

 LS3/5Aのウーファーは実測Q=0.68(下記サイト参照)とのことなのでダンピング不足気味の低音ですが、iLoud Micro Monitorはさらにダンピング不足で、入力信号が0になった後もダラダラと振動が残っています。やはり口径75mmのウーファーで50Hzまでをカバーするのは、技術的に無理のあることのようです。 https://vas2020.pixnet.net/blog/post/21324554

 

最後に実際に音楽をかけたときの主観的な印象を。一言で言えば、LS3/5Aに期待した音が実際はiLoud Micro Monitorから聴こえ、iLoud Micro Monitorの外観を見て想像した音がLS3/5Aから聴こえます。iLoud Micro MonitorからLS3/5Aにスイッチを切り替えると、一瞬ラジカセと勘違いします。100Hz以下の低音は音楽の質にそれくらいの違いをもたらします。LS3/5Aでは追いきれないベースラインもiLoud Micro Monitorでなら追うことができるわけですから。キャビネットの体積は1/4以下、しかもアンプ内蔵、ブルートゥースiPhoneと接続すれば、少なくとも私にとっては十分な性能の家庭用オーディオ装置を構成できると思います。(ただし、耳の感度の良い人だと音楽が流れていないときにツィーターから出る残留雑音- サーッという音 - が気になることがあるかもしれません。)

 

しかし、こうして聴き比べてみると、iLoud Micro Monitorの前ではラジカセに間違えられかねない骨董品LS3/5Aが、45年もの長きに亘って熱狂的なファンを獲得してきた理由も、少し分かったような気がします。どこがどう分かったのかというと、これがなかなかうまく説明し難いので、またの機会にしたいと思います。