LS3/5Aについて

BBCモニターLS3/5Aにまつわるあれこれ

誤解のもと

最近は少なくなっているかもしれませんが、いまだに誤解を招く記述がなされていることがあります。

 

<その1> LS3/5Aはスタジオモニターである。

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確かに、この背面ラベルをパッと見るとそのように思うかもしれませんが、どこにも「スタジオ」の表記はありません。実際には次のBBC社内の格付表にあるように、LS3/ は「屋外放送用のスピーカー」の分類であり、LS3/5Aは屋外放送車のような限定されたエリア用です(地方ラジオ局でも使われた)。

 

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https://www.bbceng.info/Eng_Inf/eng-inf-files/EngInf43.pdf

 

 

<その2> LS3/5Aのインピーダンスは15Ω又は11Ωである。

公称インピーダンスはその通りですが、実際には周波数によって大きく変化しており、どちらも最低は約8オームです。(グラフ中の黒色が15オーム版、赤色が11オーム版)

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https://www.stereophile.com/content/bbc-ls35a-loudspeaker-1989-follow

 

<その3> LS3/5Aはグレード2モニターである。

LS5/8については次のBBCの内部資料にグレード1モニターという表記がなされています。しかしLS3/5Aについてグレード表記がなされた内部資料は見当たりません。そもそも、スピーカーについて何段階のグレードが設定されていたのかも分かりません。分かっているのはグレード1ではないということだけです。

 

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http://www.bbceng.info/Eng_Inf/eng-inf-files/EngInf51.pdf

 

なお、BBCの内部資料でグレード1とグレード2が定義されているのはデジタルオーディオのクロックについてです。

 

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https://www.bbceng.info/additions/2018/Digital%20Audio%20-%20ETD%20Audio%20Ops%20Training%20Book%20-%20C.%20Sleight%20&%20A.%20Tutton.pdf

 

以上について、異なる事実をご存知の方は、コメント欄にお知らせいただければ幸いです。

あの日、時計をチラっと見た場所

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 夏空にこんな雲が浮かんでいたので、慌てて撮影しました↑

 

前回、「続・赤いスイートピー」は何か違うんじゃないかというお話で終わりました。

 

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なぜそんな風に思うかというと、私は知っているからです。「新・赤いスイートピー」を。 

 

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綾瀬はるかが歌ってるだけで歌詞は同じじゃないかって?
そうですね。綾瀬はるかに「赤いスイートピー」を歌わせた(少なくとも歌うことを許可した)のは、松本隆の仕掛けた伏線ではないかと思うのです。

 

この曲を聴いてみてください。

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いかがでしょうか。マーガレットの花言葉は「恋占い」、「真実の愛」、「信頼」ですが、ここでは♪ 恋占いなんてする必要もない ♪と歌っていますから、この曲名のマーガレットは「真実の愛」と「信頼」を意味することになります。

 

そして、歌詞に散りばめられた聖子ファンだけに分かるメッセージの数々。

 

♪アイスもとろけそうな夏の陽を浴びて♪

♪ピーチ・シャーベット挟んで見つめる 時さえ溶け出しそうだわ 八月♪「ピーチ・シャーベット」

 

♪ぎこちない単語の会話の距離が縮まってく♪

♪ぎこちない言葉が紅茶の中で渦巻く♪「P・R・E・S・E・N・T」 

 

♪踏まれても咲いてる…そんな強い花に私なりたくて♪

♪私はもっと強いはずよ♪ 「瞳はダイアモンド

 

♪海がシーンとするほど見つめて♪

♪Look at me 私を見つめて 息も止まるくらいに♪「Rmance」 

 

♪キスした時 足の下で崩れる砂♪

♪靴の底には砂が詰まって痛いから♪「マイアミ午前5時」

 

♪半分泣きながら半分微笑(わら)った♪

♪帰りたい 帰れない♪♪忘れたい 忘れない♪風立ちぬ

♪あなたから誘って そしらぬ顔はないわ あやふやな人ね♪白いパラソル

♪あなたが時計をチラッと見るたび 泣きそうな気分になるの♪赤いスイートピー

♪好きよ 嫌いよ♪小麦色のマーメイド

(そもそもアンビバレントは聖子ソングの大テーマです。)

  

しかも、この「マーガレット」の作曲者はユーミンです。

 

線路の脇のスイートピーは「続・赤いスイートピー」の冒頭で無残にもアルバムの押し花にされてしまったけれど、心の岸辺に咲いたスイートピーはマーガレットに生まれ変わった。体が滅びようとも魂は永遠というわけです。

さらに、スイートピー花言葉は「門出」,「別離」,「ほのかな喜び」,「優しい思い出」ですが、それがマーガレット - すなわち「真実の愛」と「信頼」- に変わったとも言うことができるでしょう。

 

余談ですが、♪雲の客船が旅立つ♪でこの曲を思い出したりして↓

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さて、名前(表面)に惑わされずに中味(本質)を見ましょうという教訓が得られたので、ここで終わりにしても良いのですが、実はまだ続きがあります。

 

ここから急に現実的な話(笑)

 

 この「マーガレット」は元祖「赤いスイートピー」を解釈する上で重要な手がかりを与えてくれました。曲頭に 江ノ電の線路を…海まで歩いたね♪ という描写がありますが、調べてみると江ノ電の線路を海まで歩けるのは、江ノ島駅から腰越駅の間の道路に線路が敷かれているところしかありません。(実際に線路を歩いたら電車か車にひかれるので止めましょう。)

一方、例の♪春色の汽車♪は湘南電車(オレンジ/緑)から発想したとのご本人の弁ですので、東京方面から東海道線藤沢駅まで乗って江ノ電江ノ島・鎌倉方面行)に乗り換えたと考えるのが自然です。次の動画で、江ノ島駅から出発して腰越駅を過ぎてしばらく行くと海に出ることが確認できます。ノロノロ電車で3分位の距離なので、歩いても大した時間はかからないと思います。

 

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腰越で砂浜に出るとこんな感じ↓(google mapは便利ですね。)

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この砂浜をずっと歩いて行くと上の電車動画の終点、鎌倉高校前駅の前に着きます。この駅は今も無人駅だそうですから、4月の雨に降られて慌てて避難した駅に人影がなかったという事実にも合致しています。

 

4月の優しい雨の降る海に面した木製のベンチ。

https://seaside-station.com/wpbin/wp-content/uploads/kamakurakokomae_01.jpg
seaside-station.com

 

ベンチから見た風景。

https://seaside-station.com/wpbin/wp-content/uploads/kamakurakokomae_09.jpg

seaside-station.com

 

隣には聖子ちゃん。話題も尽きて、どうしたらいいんだ、イキがって煙草なんか吸ってるけど本当はウブな俺。手を握っても大丈夫だろうか。ああ、このまま時が止まってくれればなあ…

そう、電車が早く来ないかなあと思ってチラ見したわけではないのです。そんなこと思うわけないですよ。なんてったって隣にいるのは聖子ちゃんなんだから!

 

止まらなくなりそうなので、この辺で終わりにしましょう。

 

あ、おまけにもうひとつ、腰越の砂浜で右を向いて海を見るとこんな感じ↓

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ちょうど引き潮の時間なので、イニシャルを刻んだ岩(「ガラスの入江」)が見えるかもしれません。

 

お後がよろしいようで。

 

さて、4回にわたってお送りした松田聖子特集ですが、最後の妄想大爆発はいただけませんでしたねえ。手持ちのネタも尽きたので第一期はこれにて終了です。またネタができたら書くつもりです。与太話にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。(ほとんどの聖子ファンの方はご興味ないと思いますが、LS3/5Aネタの方は続きます。)

 

<追記>

4月の雨に降られて二人が避難した駅は江ノ電腰越駅という推測もできますが、電車動画で見ると腰越駅からは民家に遮られて海が見えず、ベンチから民家を見ながらというのも興醒めなので、上記の解釈としました。 

 

<追記2>

♪風に海の青がうすく溶けてゆく♪「マーガレット」

♪君の眼を見ていると海を想い出すんだ 淡い青が溶けて♪「夏色のおもいで」(チューリップ)

 こういう繋がりもありました。そうすると、春色夏色も繋がります。

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広告が不愉快なので空白行で水増し。 

渡されたバトン〜三浦徳子から松本隆へ

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前回「ガラスの入江」と「潮騒」の関係についての勝手な憶測を書いてみたら、意外なほどご好評いただきましたので、いま持ってる同じようなネタを全部書いてしまうことにします。(こういう話題は以前から聖子ファンのBBSなどで幾度となく出ていたと思うので、全部が私のオリジナルの考えというわけでもないのです。)

根っからの運動音痴/運動嫌い/運動不足の私としては、何もこんな時期にやらなくてもいいと思う国際運動会ですが、やるらしいので、それに因んだタイトルを付けてみました。

 

1. 裸足の季節 ---> 白い貝のブローチ

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もぎたての青い風♪はいつしか♪白いブローチは似合わないわ秋風♪に変わり、♪誘われた映画は眩しすぎ♪♪思わずうつむいた♪ような♪目立たなくて地味な娘を変えた人はあなた♪なのに、♪二人ひとつのシルエット♪から♪離れるシルエット 暮れなずむ愛はさよなら♪なんて悲しいですね。

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2.  夏の扉 ---> 渚のバルコニー

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お恥ずかしい話ですが、♪砂の浮いた道路は夏に続いてる♪ というフレーズはたしか「夏の扉」だったよなと思って聴き始めたら最後まで出てこなくて焦ったことがあります。好きな女子の前でわざとおバカをやって見せるのが男子ですよね。ヴェールの向こう側からこちら側へ来て欲しいと女子の側から言って欲しいというシャイな男子の願望を聖子ちゃんに歌わせようという作戦が、ちゃんと引き継がれています。

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3. ナイーブ~傷つきやすい午後~ ---> レモネードの夏

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アルバム『Silhouette ~シルエット~ 』の地味曲だけど、これはまず小田裕一郎の作曲が素晴らしい。歌詞の方はやや説明臭が気になるけど、一番と二番の時間を逆にしてあるのはナイスな技ですね。詩的で素敵な ♪ 木立の緑   二人の頬に今明暗を今つけてゆくのよ♪ (1981年5月)から白いカフェーから揺れる木洩れ陽を見たの♪(1982年5月)までには本当に1年かかってますよね。

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 <追記>

「ナイーブ~傷つきやすい午後~」は内容的には「レモネードの夏」ですが、字面で見ると「白いパラソル」がモロでした。

♪お願いよ 最後は本当のことを告げてよ♪ ---> ♪お願いよ 正直な気持ちだけ聞かせて♪

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4. スプーン一杯の朝 ---> 水色の朝

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これはそのまんま朝シリーズですね。 面白いのは若いときの方がアッハ〜ンお色気系で、後の方が清楚系になっていることです。この辺りは女性作者と男性作者の違いなのかしら。

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5. ウィンター・ガーデン ---> P・R・E・S・E・N・T

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 「ウィンター・ガーデン」はクリスマスのプレゼントだから12月、「P・R・E・S・E・N・T」は誕生日のプレゼントだから3月。彼も結構いそがしいっすネ。

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6. クールギャング ---> Party's Qeen

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どうして女って奴は、ちょいワルで遊び上手のイケメンが好きなんでしょうね?ってなんで私ひがみっぽいんでしょうね?

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<最後に苦言>

これは松本作品どうしのリレーですが、むしろ製品取扱説明書にでも似合いそうなパッサパサの作文が、香り高い「赤いスイートピー」の続編であるわけがありません。♪駅員に頼んで写真撮ってもらった♪というところで嘘がばれます。♪他に人影もなくて不意に気まずく♪なったのだから無人駅だったはず。"実は駅員のいた赤スイ"なんて、イヤだイヤすぎる〜!

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これには続きがあるのですが、今日はここまでにしておきましょう。4あたりから疲れてきて、手抜き感満載ですみません。次回で手持ちのネタ切れ、聖子トピックス第一期最終回になります。お楽しみに。

 

<追記>

gendai.ismedia.jp

上の記事を読んだら、もう松本隆の時代ではないことがよく分かりました。

 「口では相手のことを『嫌い』と言っているけど本当は好き、みたいな描写が、今は通じないんですよ」

 

 <追記2>

若松プロデューサーはご存知ないとおっしゃっていた「白い風は旅人」ですが、たしかに聖子ちゃんの声のように聴こえますね。

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<追記3>

 CMソング?「気分はスニーカー」は「レモネードの夏」の元ネタ?

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これが元祖かな。

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聖子ファンのためのLS3/5A入門

せっかく聖子ファンの皆様にお越しいただいているので、ブログタイトルにもなっている小型スピーカーL3/5Aのことをちょっとだけご紹介しておきます。

1. デビューから46年経っても熱心なファンがいる

https://thepeak.com.my/wp-content/uploads/2019/04/Joseph-Ki-audio-system-collector-2-ThePeakMalaysia.jpg

大きな棚に収納された19組38台のLS3/5Aです。世界一のコレクター、マレーシアの建築家Jo Ki 氏のコレクションの一部!

2.ボーカル(声)が専門

https://www.bbceng.info/Operations/studio_ops/reminiscences/BBC-TV-mcr-from-Eagle.jpg

例えばこの絵のような競馬中継の野外放送車で使うために、英国放送協会BBCが自社開発したものです。放送局だけあって、アナウンサーの声の再現性にはこだわり抜いたようです。

3.可愛い見かけによらずプロ

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地方ラジオ局のDJブースでも使われました。コンソールの上に置かれていますね。幅19cm・高さ31cm・奥行17cm、重さ5kgです。

4.アンチもいる

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6e/Noriko_Awaya.jpg/200px-Noriko_Awaya.jpg

BBCブランドに人気があるだけだという人もいます。ニワトリを絞めたような音とまでは言われてませんが。

 

 

「ガラスの入江」の秘密の秘密

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せいぜい数ヶ月で聴き捨てられるのが流行歌の宿命ですが、大瀧詠一がそういった一切を忖度せずに - ついでに予算も忖度せずに - 全力を注いだのがアルバム『風立ちぬ』でした。それは松本隆も同様で、とても流行歌とは思えないほどに磨かれた歌詞を提供しています。

例えば、2曲目の「ガラスの入江」は、最小の語数に最大の情報が詰め込まれていて、まさに一編の短編映画を見るかのよう。野暮を承知で説明します。

この曲はまず控えめなギターの和音と聖子ちゃんのモノローグで始まります。こういったヴァースから始まる(古くさい形式の)曲は’80年代でも珍しかったと思いますが、聖子ソングには他にも「瞳はダイアモンド」や「天使のウインク」がありますね。ハモンドオルガンの短い序奏のあと本編に入ります。

 

♪ 晴れた空を映した小さな入江 裸足になればまだ切れるほど冷たい♪

 

季節は春、青い水を湛えた海岸、彼女は愚かなことと知りつつ裸足になって水に入ってみる。なぜでしょうか?

 

♪あの日彼のバイクの後ろに乗って 夕陽探しに来た秘密の場所♪

 

<回想シーン> 夕陽が見たいわ、とおねだりしてここへ連れてきてもらったのです。大瀧詠一『A LONG VACATION』の「雨のウェンズデイ」、♪海が見たいわって言い出したのは君の方さ♪という歌詞を思い出してください。秘密は次で明らかになります。

 

♪濡れた岩に刻まれたイニシャルが 過ぎた時を呼び戻す♪

 

<現在に戻って> イニシャルを刻んだ岩の場所は二人だけの秘密ですが、無事に見つけることができました。まだ切れるほど冷たい水に入った理由はこれです。

 

♪ブレスレット外して砂に埋めても 手首の白さだけ消えないのね♪

 

直接的には、彼と過ごした夏の想い出(=ブレスレット)を砂に埋めて忘れようとしても日焼けの跡のようにまだ消えないという意味ですが、逆にとれば、日焼けの跡はいつか薄れて消えてしまうけれど、想い出だけはどうか消えないでほしい、とも読めます。♪好きだったのほんとよ 忘れないで♪というヴァースの歌詞がここで効いてきます。

 

♪砂に褪せた小舟の縁に座って 想い出に向かって小石投げる♪

 

砂浜に打ち捨てられて朽ちた小舟=もう二人を乗せることはないバイク、ですね。しかし、"砂に褪せた"とか、"想い出に向かって小石投げる"とか、なんと美しい言い回しでしょうか。ポエム親父はこういうのに弱いのです。

 

♪ガラスの入江はひき潮の時間 ほんの少しだけ涙も流したの♪

 

ひき潮のときにだけ近付けるイニシャルを刻んだ岩が、満ち潮になると水に隠れてしまうように、想い出はガラスみたいに脆くなっていて、もうすぐ涙も流れなくなることを暗示しているようです。

 

ポイントを見て来ましたが、どうでしょう。極めて技巧的なのに技巧臭が鼻につかず、ただ字面を追うだけで情景が目に浮かびます。松本隆といえども、いつもこんな風に書ける訳ではありませんでした。私はこれを聖子ソングに提供された歌詞の最高傑作のひとつと見ています。

 

 しかし、これだけでは終われません。最後の♪ひき潮♪という言葉から何かを思い出しませんか? そう、ファーストアルバム『SQUALL』に収められた潮騒はこんな歌詞です。

♪愛は水辺に映る夢ね

 砂を指で握り流す

 人は美しい明日を待っているの

 Dreaming tonight

 過ぎた時の流れたどり

 一人訪れてみたの

 波が寄せるたびに

 あなた想い出すの♪

(作詞 三浦徳子

ご覧のとおり、「ガラスの入江」は「潮騒」の本歌取りアンサーソングです。なぜそうなのかというと、4thアルバム『風立ちぬ』から松本隆が全面的に作詞を担当するようになったからでしょう。当時はインターネットも無く、アルバム曲の歌詞を知っているのはアルバムを買ったファンだけでした。松本隆は、そういった筋金入りのファンだけが分かるように、僕も『SQUALL』を持ってるよ、三浦徳子さんをリスペクトしているよ、君たちと同じ古参のファンだよ、だからよろしくね、という挨拶を送ったのだろうと思います。粋ですねえ。

 

<追記>

原稿を下書き保存したはずなのに、いつのまにか公開されていました。ボタンを間違えたみたいです。気に入らないところを少し修正しました。

 

<追記2>

夕陽を探すという表現がずっと引っかかっていて、今日の帰り道にふと気づいたのですが、都会ではビルに阻まれて綺麗な夕陽が見えないのです。建物の隙間から射(刺)して来る夕陽は容赦なく暑いだけ。夕陽を探さなければならないとすれば、おそらく主人公二人が都会に暮らしていたからではないでしょうか。

 

staff.hatenablog.com

「風立ちぬ」の二十分の九

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 ノスタルジーで手に入れたLS3/5Aで一体何を聴いているのかというと、聖子ちゃん。そう、今年でデビュー41周年を迎えた松田聖子こそ、発売45周年のLS3/5Aで聴くのにふさわしい歌手と言えます。

今の季節には「青い珊瑚礁」や「夏の扉」や「白いパラソル」がぴったりですが、一足早く「風立ちぬ」を聴いています。なぜかというと、図書館で『ナイアガラに愛をこめて〜大瀧詠一ルーツ探訪の旅』(木村ユタカ著)という本を借りてしまったから。副題に"ルーツ探訪"とあるように、大瀧詠一が自作に引用した'50〜'60年代ヒットソングを探ろうという趣向で、その中に松田聖子への提供曲「風立ちぬ」が取り上げられているのです。

 楽曲の中に引用を見つけるとすぐに"パクリ"だと責め立てる人がいますが、それはJASRACに毒されすぎというものでしょう。内田樹はこのように書いています。

音楽の世界では大瀧詠一師匠がこの「本歌取り」の大家であることはご案内の通り。
なぜ「ナイアガラー」という熱狂的で忠実なオーディエンスが大瀧師匠の場合に発生するかというと、この「本歌」のヒントを師匠は実にさりげなく楽節の隙間にさしはさむからである。
あ、このフレーズは「あの曲の、あそこ!」ということに気づいたナイアガラーは、これを発見したのは世界でオレ一人だ。このコールサインは師匠と私の間だけに結ばれた、余人の入り込むことのできない「ホットライン」なんだ・・・という陶酔感に深く久しく酔い痴れることが許される。
このような快感を組織的に提供してくれるミュージシャンは師匠の他にはいない。
師匠の「日本ポップス伝」は言い換えれば「本歌取りの歴史」である。
あらゆる作品は(音楽であれ文学であれ)、その「先行項」を有している。
その先行項をどこまで遡及し、どこまで「祖先」のリストを長いものにすることができるか。
読者が作品を享受することで得られる快楽は、ひとえにそこにかかっている。
リストが長いものになればなるほど、その作品は読者との親しみを深める。 

内田樹の研究室「X氏の生活と意見」から引用。次のリンクから全文をお読みください。http://blog.tatsuru.com/2008/05/19_1253.html 

逆に言えば、先行項を有さない作品は読者や聴者に喜びを与えられないということです。極端な話、今までに無い全く新しいメロディ(音の並び)はサイコロを振って簡単に作れますが、ほとんどの人(ごく一部のクラヲタを除く)にとっては雑音にしか聴こえないはずです。過去に作られたメロディに似ているからこそ、新しく作られた音の列もメロディとして認識できるのだし、心に響くわけです。

何の話をしていたかといえば「風立ちぬ」でした。大瀧詠一は20曲が集まらないうちは作曲しないと豪語していましたから、当然「風立ちぬ」にも20曲の先行作品があるはずです。私はナイアガラーではなく、オールディーズにも無知ですが、ありがたいことに先達がネット上に残した情報を拝借することができます。順番に見て行きましょう。(前掲書『ナイアガラに愛をこめて〜大瀧詠一ルーツ探訪の旅』に紹介されているのは1, 2, 4, 5)

 

1. Diane Renay - "Kiss Me Sailor"

この曲のイントロの女声コーラスをストリングスにすれば「風立ちぬ」のイントロに。 

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2. Jimmy Clanton - "Venus In Blue Jeans"

この曲のAメロの後半が「風立ちぬ」のサビの後半、♪今日から私は〜♪に対応します。Wikipediaをはじめ、これが元ネタとされることが多いです。

youtu.be

 

 ♪今日から私は〜♪

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3. Shelley Fabares - "Johnny Loves Me"

これも「風立ちぬ」のサビの後半に対応します。動画を埋め込み再生できないので、次のリンクからYouTubeでご覧ください。

https://youtu.be/OGiHpRAlihU?t=14

 

 

4. Diane Renay - "Navy Blue"

 この曲のAメロ前半が「風立ちぬ」のサビの対旋律に採用されています。

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 次の「風立ちぬ」の-0:13からのストリングスを上の"Navy Blue"の出だしと比べてみてください。

open.spotify.com

 

 

5. Shelley Fabares - "Big Star"

 このAメロが「風立ちぬ」の♪涙顔見せたくなくて〜♪に対応します。

www.youtube.com

 

 ♪涙顔見せたくなくて〜♪

www.youtube.com

 

6. Frankie Avalon - "Vinus"

このイントロの女声コーラスをお聴きください。

 

 

 「風立ちぬ」の1:22辺りに採用されています。

youtu.be

 

 

7. Shelley Fabares - "Telephone (Won't You Ring)

この曲の1:31辺りの伴奏の三連符アレンジをお聴きください。

(動画を埋め込み再生できないので、次のリンクからYouTubeでご覧ください)

https://www.youtube.com/watch?v=DP_Av9wqsj8&t=91s

 

風立ちぬ」の3:47辺りに登場します。

youtu.be

 

先出のJimmy Clanton - "Venus In Blue Jeans"の1:59にも同様の三連符アレンジがあります。こちらの方がより近いかも。

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8. Billy Vaughn - "Look for A Star"

イントロのピチカートをお聴きください。

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風立ちぬ」の0:46からのチェンバロの音形ですね。先に挙げた"Big Star"に"Look for a Star"を絡ませるというアイデアでしょうか。素晴らしい!

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9. 都はるみ - "涙の連絡船"

♪汽笛が、汽笛が、汽笛が〜♪と三回繰り返すところ。
(動画を埋め込み再生できないので、次のリンクからYouTubeでご覧ください)

https://youtu.be/0gs2grqABVo?t=59

 

もちろん、サビ前の SAYONARA X 3 です。

youtu.be

 

 

  

ここまででまだ9曲なので、少なくともあと11曲はあるはずです。例えば、この弦の刻みなど、どこかに先行例が埋れていそうです(作者が亡くなってしまったため、正解は永久に不明)。ご存知の方はコメント欄にお知らせいただけると嬉しいです。

youtu.be

 真偽のほどはわかりませんが、「風立ちぬ」を聴いた外国のオールディーズマニアがビックリしたとか。それはそうでしょう。極東から伝来した一曲の中に20曲ものナツメロが詰め込まれていたのですから。しかし、当時「風立ちぬ」を聴いていたリスナーの99%以上はそんなことは全く知らずに楽しんでいたということ、これが一番重要なポイントです。2、3ヶ月で聴き捨てられる消費音楽にこれだけ凝った作り込みをした大瀧詠一も凄いですが、その大瀧詠一をやる気にさせた松田聖子も凄かったと言えましょう。何しろ大瀧詠一「これは歌が上手い、と思った人は誰ですか?」と問われて松田聖子に会ったときは面白かった」と答えたぐらいですから。何が面白かったかというと、アルバム『風立ちぬ』のプロデューサー若松宗雄(W)のインタビュー記事にこんな逸話が登場します。(Mはインタビューア)

W いや。まずはシングルの『風立ちぬ』をお願いして。少しずつ他の曲も完成していきました。でも大滝さんのレコーディングスタイルは独特で今までとやり方が違ったので、当初聖子も戸惑ってしまい。

M というと?

W 通常は簡単なアレンジを入れたデモテープが用意されているのですが、大滝さんの場合は何もなくて。スタジオでいきなり大滝さんがピアノを弾き始めて、それに合わせて聖子がその場で歌いながらメロディを覚えていくんです。ただ、途中で曲がどんどん変わっていくし、聖子が間違うと、「それもいいねぇ」と言いながら変えていく。なので、聖子も最初は混乱してね。でも次のレコーディングでは切り替えて、笑顔で歌い始めて。

M それはきっとアーティスト対アーティストの作り方だったんでしょうね。聖子さんの音域や声の響きを考えながら作るから、時間がかかるというよりは、時間をかけて贅沢に作られた楽曲だったんですね。

W はい。聖子のすごいところは、そういうときもパッと切り替えて明るく順応できてしまうところ。そのときも、笑顔で歌いながら一瞬ちらりと私を見るので、私も「がんばれ!」と目で合図を送ったりしてね。

(コラム:松田聖子の80年代伝説Vol.5 松本隆大滝詠一との出会いが、ポップス史に残る名盤を生んだ4thアルバム『風立ちぬ』〜前編〜 https://ginzamag.com/column/seikomatsuda-80s-05/ )

 

シングルヒット「風立ちぬ」を含む松田聖子のアルバム『風立ちぬ』のA面5曲が、大瀧詠一自身の大ヒットアルバム『A LONG VACATON』中の5曲とペアになっていることはWikipediaに書かれるなどして良く知られています。風立ちぬ (松田聖子のアルバム) - Wikipedia
風立ちぬ」とペアになる曲は「カナリア諸島にて」と本人が解説していますが、それは作曲面での話。歌詞で見れば「君は天然色」だろうと思います。内容が作詞者松本隆の妹の死に密接に関係しているからです。君は天然色 - Wikipedia 
風立ちぬ」は、よくある恋人との別れ話ではありません。頭サビの後、平歌の冒頭に置かれた ♪涙顔 見せたくなくて♪ は、♪もう泣くなよ♪ という♪あなた♪の言葉を回想して生まれた気持ちであり、この別れが止むを得ない事情によるものと分かります。特に二番の♪草の葉に口づけて 忘れたい 忘れない あなたの笑顔♪の箇所は、ホイットマンの詩集『草の葉』に加えて、嫌でも「草葉の陰」という言葉を想起させます。「風立ちぬ」が秘められたレクイエムだと考えれば(堀辰雄の小説を思い出してください)、同名アルバムのジャケットを飾る松田聖子のフードを被った特異な写真の意味も理解できるのではないでしょうか。

artsandculture.google.com

表面的に見れば松田聖子はただのアイドル歌手であり、「風立ちぬ」はただのヒット曲にすぎず、LS3/5Aはちっぽけな古ぼけたスピーカーですが、いずれも時代を超えて(昭和→平成→令和)支持されている、その理由の一端がちらりと見えたような気がしました。

 

<追記>

W そうかぁ、なるほど。聖子の『風立ちぬ』のときも大勢のミュージシャンがいましたよ、スタジオに。

M クレジットを見るとギターだけで一体何人いるのかと(笑)。コーラスも生の声で何重にも。ちなみに『風立ちぬ』では最後のサビの直前に大滝さんのファルセットが聞こえます。クレジットはないけど大滝さんが言及されていて。

(コラム:大滝詠一80年代伝説<前編> 唯一無二のナイアガラ・サウンドで革命をもたらした 『A LONG VACATION』と松田聖子の『風立ちぬ』 https://ginzamag.com/column/seikomatsuda-80s-sp1/ )

 大瀧さんのファルセット

youtu.be

 

<追記2>

風立ちぬ」を大瀧詠一とレコーディングしたときの様子を聖子ちゃんが語っています。ワンコーラスだけ流されるデモ版の録音は、譜割りやアレンジが完成版とは違うところがあって、貴重な記録です。

youtu.be

 

<追記3>

こちらのブログ記事によると「風立ちぬ」の譜割りは、最初はレコードとは違っていたようです。ブログ主のLULLABY 80'sさんは、YouTubeに大量の聖子動画をUPしてくださっている方で、感謝の言葉しかありません。

ameblo.jp

<追記4>

「スピーチ・バルーン」の歌い出しが 4に挙げた「Navy Blue」の歌い出しの引用だとすると、「風立ちぬ」の裏メロディは「スピーチ・バルーン」ということになります。つまり、♪風立ちぬ 今は秋♪と♪細い影は人文字♪を同時に歌うことができるという訳です。

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カラオケだと、ストリングスが「Navy Blue」=「スピーチ・バルーン」を奏でるのがよく分かります。0:12〜

風立ちぬ (オリジナル・カラオケ) - Original Karaoke - song by Seiko Matsuda | Spotify
open.spotify.com

 <追記5>

www.youtube.com

ポール・マッカートニーが、J.S.バッハリュート組曲第1番「ブーレ」から「ブラックバード」が生まれたことを披露している動画を教えていただきました。(こういうのを見ると、どうせ後付けの話でしょうと言う人がいますが、順番はどうでもいいことです。)

 

<追記6>

ナイアガラーのれんたろうさんが、上に挙げた「風立ちぬ」動画 0:31からの弦の刻みの元ネタはシュレルズの「 Will You Still Love Me Tomorrow 」だよと教えてくださいました。詳しくは次のブログをご覧ください。情報量と分析の凄さに、ただただ圧倒されるばかりです。

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さらに、SAYONARA三連発はこの大瀧詠一作曲「星空のプレリュード」の1:22〜、♪ををを〜♪の裏のコーラス部分を転用したものとのことです。

youtu.be

ナイアガラーでなければ、こういった曲を見つけることはほとんど不可能ですね。
れんたろうさん、正解を教えていただきまして、本当にありがとうございました。

 

<謝辞>

このような記事を書けるのもYouTubeに貴重な動画をUPしてくださった方々のおかげです。感謝申し上げます。

なお、このように簡単にリンクを張って関係性を作れることこそインターネットの本質だと個人的には考えていますので、リンクを張る際にご本人の許諾を得ることは致しておりません。もしお気に障るようでしたら削除させていただきますので、コメント欄にお知らせくださるようお願い致します。

LS3/5Aとは何か?

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LS3/5Aとは何か。次の二つのサイトとそのリンクを見れば、かなりのことが分かるはずです。

 

特に、BBCのR&D部門が公開しているLS3/5Aの開発報告書は基本中の基本。

 

また、BBCのエンジニアリング部門が公開している技報にも貴重な情報があります。

 

11オーム版を生産販売していたハーベスのユーザーズ・フォーラム。たまに社長がLS3/5Aについて辛口の投稿をしています。(メンバー以外は閲覧範囲に制限があります。)

 

stereophile誌は1977年から継続的にレビューを掲載しています。

 

日本語ではハイファイ堂メールマガジン

 

こちらは中国語だがgoogle翻訳を使えばおおよそのことは把握できます。

 

さらに、ファンどうしの交流の場としては次のものが代表的。

 

最後にアンチ!

 

LS3/5Aは見た目は古ぼけた木箱でしかありませんが、LS3/5Aのことをもっと知りたいと思えば、その中に詰め込まれたいくつもの物語を見つけることができる。そういった奥の深さが、LS3/5Aの魅力の大きな部分を担っているのだろうと思います。